「源氏物語 関屋」(紫式部)

埋み火のような静かな燃え様

「源氏物語 関屋」(紫式部)
(阿部秋生校訂)小学館

「源氏物語」小学館

明石から帰京した翌年、
源氏は石山寺に参詣するが、
その折、任を終えて上洛する
常陸の介一行と
逢坂山ですれ違う。
一行には、かつて源氏が
一夜限りの契りを交わした
空蝉がいた。
源氏から届いた手紙に、
空蝉の女心は揺れ動く…。

明石から帰京した源氏が、
政権復帰とともに
女性関係修復の顛末を描いたのが
第十四帖「澪標」でしたが、
そこから漏れていた醜女・末摘花との
関係を取り上げた前帖「蓬生」に続き、
本帖では空蝉の再登場です。
空蝉といえば第二帖「帚木」で、
十七歳の源氏と一夜限りの不倫をし、
次帖「空蝉」にいたるまで
三度も源氏を拒み通した女性なのです
(三度目はなんと継娘の軒端の荻を
身代わりに残し、
源氏は空蝉と間違えて
彼女と関係を結ぶ)。

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この帖では源氏はすでに二十九歳。
十二年前に一度だけの夜をともにした
女性と再会し、
再び恋の炎を燃え上がらせた源氏。
そして空蝉もまた源氏からの手紙に、
女心を揺り動かされるのです。

女がかつて拒み通したのは、
源氏が嫌いだからではありません。
身分の大きな隔たりに、
いつかは捨てられてしまうに
違いないといった
やるせない気持ちが表に立っての
ことなのです。
「いとかく品定まりぬる身の
 おぼえならで、
 過ぎにし親の御けはひ
 とまれる古里ながら、
 たまさかにも
 待ちつけたてまつらば、
 をかしうもやあらまし。
 しひて思い知らぬ顔に見消つも、
 いかにほど知らぬやうに思すらむ」

 (「帚木」より)
(受領の妻などではなく
実家で暮らしていた頃であったなら、
たまの訪れを待っていられるものを。
知らないふりをしている私を、
身の程知らずと思っているだろう)

末摘花は落ちぶれていても
身分は高かったのです(親王の娘)。
しかも独身でしたので、
一途に源氏を待ち続けることが
可能でした。
でも、空蝉は身分の低い受領の妻に
すぎないのです。
源氏との恋に走るわけには
いかなかったのでしょう。
何とも自己抑制の強い
女性だったのです。

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源氏もまた
一度でも関係を持った女性には
手厚い保護をする主義です。
しかも簡単になびいた女性には
興味を示さず、拒まれた女性にこそ、
いつまでも未練を持ち続けるのです
(藤壺に対してもそうでした)。
源氏は後に
空蝉を二条院に迎え入れます。

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十二年の歳月を超えて
二人の恋心は再び燃え上がるのですが、
かつてのような
燃えさかる炎ではありません。
埋み火のような静かな燃え様です。
大人になるというのは、
このようなことなのかも知れません。

〔前帖〕

〔次帖〕

(2020.5.2)

ぐっとぴさんによる写真ACからの写真

【源氏物語】
01 桐壺
02 帚木
03 空蝉
04 夕顔
05 若紫
06 末摘花
07 紅葉賀
08 花宴
09
10 賢木
11 花散里
12 須磨
13 明石
14 澪標
15 蓬生
16 関屋
17 絵合
18 松風
19 薄雲
20 朝顔
21 少女
22 玉鬘
23 初音
24 胡蝶
25
26 常夏
27 篝火
28 野分
29 行幸
30 藤袴
31 真木柱
32 梅枝
33 藤裏葉
34 若菜上
35 若菜下
36 柏木
37 横笛
38 鈴虫
39 夕霧
40 御法
41
00 雲隠
42 匂兵部卿
43 紅梅
44 竹河
45 橋姫
46 椎本
47 総角
48 早蕨
49 宿木
50 東屋
51 浮舟
52 蜻蛉
53 手習
54 夢浮橋

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